夕方、料理の支度をしようと思って冷蔵庫を開けてみたら、
意外なことに、野菜類が少なかった。
おかしいなあ、買っておいたつもりだったんだけど。
まあ、そんなことを言っても始まらない。
だいたい、飲み疲れと、たくさんの人にあっていろんな話をがっつりしたせいで、
ちょっと心身共に疲れちゃっていたから、
冷蔵庫の中身を眺めたところで、いいアイディアが浮かばない。
そんなことを考えながら、迷っていると、
旦那さんがパスタを食べたいという。
ごめん、今日はパスタに出来るようなものが、残念ながらない。
アーリオ・オーリオでも食べておけばいいのかも知れないけど、
イタリアンパセリのないアーリオ・オーリオなんて、とか、
個人的には思ってしまうので。
パスタはともかく、ちょっと疲れちゃってるから外に出かけようと言うことに。
え、お酒を飲むって事ですか?(笑)。
なるべくなら体に優しいものが食べたいし、ゆっくりしたい。
いろいろ考えたのだけど名案も浮かばず、馴染みの居酒屋さんへ向かう。
しかし、残念ながらお店は急な休み。何かあったのかな。
意外とその周辺での持ち駒が少ないので、
(というより、お酒をしっかり飲める店ばかりを知っていて、
体に優しいごはんが食べられるところを思い出せない)
ふらふらと歩きながら、店を探すことにしてみる。
途中、雨が強くなってきたので小さなビニール傘を買って歩く。
せっかくここまで歩いたから、席があるかどうかわからないけど、
あの店まで行ってみようと言うことになる。
ここを曲がったら本当に店があるの?という細い路地を抜けると、
突き当たりにレストランが見える。
「ボッカ・ルーポ」というイタリアンで、
las Meninasのジョンなんかも、すごく美味しいんだって話をしていて、
是非行ってみたらいいとずっと勧められてたのに、今まで来ていなかった。
旦那さんは仕事でこちらに先日来たばかりで、
週末だし、混んでいると思う、と話していたのだけど、
運良く団体のテーブルが開いたばかりの様子だった。
テーブルに通してもらって、ほっと一息。
雨が降っていたせいか、少し蒸し暑かった。
食前酒にリモンチェロのソーダ割りを頼んで、メニューを見る。
いろいろ迷って、ちょっとアンティパストを多めにオーダーした。
人と会っていろんな話をするのも楽しいけれど、
ふたりで食事に来ると、リラックスして食事が楽しめたりする。
アルコールで、体が弛緩していくのと同時に、気持ちが緩んでいく。
テーブルにカトラリーが出される。
焼き物で出来たナイフレスト。形が合理的。
なかなか綺麗にセットできる物を見つけるのが難しいんだけど、
これは家庭で使うのにも良さそうな形とスタイル。
温められてでてきたパンは自家製。ホールの女性の手製だそうで。
手前がじゃがいもを練りこんだもの、向こう側がトマトを練りこんだもの。
オリーブオイルにパルミジャーノのおろしたのが入ってでてくる。
オイルはトスカーナかな。香りがものすごく良い。
パンも、練り混んだ野菜の香りがすごく良くて、これだけ食べたくなっちゃう。
最初に宮城産の生牡蠣。ハーブを使ったソースの物と、
白ワインとレモンを使った物の2種類。
写真に撮るのを忘れたけれど、
宮城の牡蠣らしい平べったく殻の薄い牡蠣。美味しくいただきました。
リモンチェロのソーダ割りは、牡蠣ともよく合う。
さんざん迷ってワインを選ぶ。バレラというピエモンテの白ワイン。
コルテーゼ100%、ということだけでなんとなく選んでみる。
料理とのことも考えつつ。
アンティパストは牡蠣以外に2皿。
まずは秋鯖と丸茄子、里芋のタルト仕立て。
サクサクしたパイのいい香りがする。
なんというか、背の青い魚をパイに焼きこむということを、
私は考えたことがなかったのでちょっと新鮮だった。
ジューシーな丸茄子と、ねっとりとした里芋の食感。
秋の食材が丸ごとタルトの中に詰まっている感じ。
選んだワインは鯖ともベストマッチ。
もう1皿。秋鮭の白子のソテー 野菜の煮込み添え。
鮭の白子って、なんか食べる機会がないのは私だけかな?
ふっくら、むちっとした食感で美味しい。
奪い合うようにそれぞれの皿を平らげ、
気がついたらワイン1本空になってる。
今日は肝臓をいたわるつもりだったのになあ。
何で毎回こうなっちゃうのか。
バレラは、コルテーゼらしい、ハーブや草木の香りがするなかに、
柑橘系の果実やミネラルの香りがして、酸がキラキラとしている。
ガヴィなんかと同じで、ぎゅっと冷やしてあげると美味しい。
最後の最後に、濃厚な果実味がでてきた。
それは、熟して糖度の高い、ものすごく甘い葡萄を食べて、
甘さで喉がひりつくような、そんな感覚の果実味。
健康な白葡萄の充実した糖分を、そこから感じることが出来るというか。
プリモピアット、選ぶのに困りました。
サルシッチャを使ったペンネにするか、
ボタン海老と白ネギのリングイネにするか、
いっそのこと2皿取っちゃうか。
ホールの女性にどちらがお薦めか聞いたら、
「……うーん、ボタン海老。」という答えが返ってきたので、
じゃあ、そっちにします、とオーダーして、でてきたのがこれ。
テーブルに運ばれてきたとき、ふわっと白ネギのいい香りがする。
うわー、白ネギえらーい!と思ってさっさと撮影して取り分ける。
白ネギと、ボタン海老のソースの濃厚な香りがする。
わずかにお皿に残る、海老のソースを綺麗にそれぞれの皿に分け、
香りを楽しみながら口に運ぶ。
いや、すごい旨い。
あのね、私は別に、甲殻類、特別好きじゃないのよ。
たまに無性に食べたくなるけど、年に1回くらいなもので、
海老があるからって必ず頼むとか、そういうタイプじゃないの。
伊勢海老で、アメリケーヌソースなんて、
旨いんだろうけど、頼む事なんてまずないわけ。
でもこれはホントに旨い。
今まで食べた、海老を使ったドライパスタの中で一番かも知れない。
しかも、旦那さんはリングイネ、嫌いなのよ。
でも、彼も「旨い!」を連呼しながらあっという間に食べ終わる。
こういうソースって家では出来ないもんね。
海老の殻や頭をたくさん使ってソースを作るし。
いや、魚屋さんで頼めば、海老の頭だけたくさん買うことも出来るけど、
そこまでして家で食べようとしないというのが事実。
外だから食べられる、濃厚な味わいのパスタ。
さっきなくなったワインの次に頼んだのも白ワインで、
今度はカロールスというワイン。
海老だからシャルドネですかねえ、とホールの方と相談して、
でもシャルドネ単体はつまらないので、アルネイスなんかとブレンドした物をチョイス。
これがまた、よく合うんだな。幸せすぎ。
「プリモ、もう1品頼めば良かったなあ」と彼がぽつり。
いやこれで良かったんだと思う。
セコンド頼んだんだし、プリモもう1品は食べ過ぎ。
そのセコンドは、メニューになかった物。
黒板のメニューに書かれたセコンドの中から、
どれにするのかとても迷ったんだけれど、
いちかばちか、今日は何か他に食べさせたいものはない?と訊いてみた。
そうしたら、アイナメのアクアパッツァが出来る、といわれたので、
二つ返事でお願いをした。
アクアパッツァ。もうそんなシーズンです。
私にとっては、冬の食べ物というイメージ。
メバルとか、カサゴとか、アイナメとか、根魚を使うのが美味しいからなのかな。
アクアパッツァ、頭がないのが残念だったなあ。
やっぱり丸のままのお魚が好きなんだもん。
でも、まだ小さなアイナメは身がしっかりとしていて美味しい。
塩もばちっと決まっていて、いい感じ。
微かな苦味のあるワインも進む。
ちょっと、アドレナリンがでちゃってる状態であっという間に食べ終える。
ドルチェを食べるって言ったら旦那さんに驚かれた。なんで?(笑)。
食後の糖分摂取はまずいですかね。でもドルチェ食べないと終われない。
結局迷ってしまったから、ドルチェミストにしてもらう。
マンゴーのジェラートに、いちじくの赤ワイン煮、
ナッツのケーキ、チョコレートのケーキ、栗のパイ包み。
ナッツのケーキが美味しかったな。
締めくくりに食後酒を飲むのは今日はやめておいて、
大人しくハーブティーを飲むことにする。フレッシュのミントティー。
アンティパストでじわじわ攻められながら、
プリモでガツンとやられて、セコンドで息絶えた感じ。
家の近くでこういう物が食べられるのは、幸せすぎです。
そうでなくても、高円寺にこういうしっかりしたお店はあまりなかったので。
最近住宅街にも、こんな風な、しっかりした店が増えてきたと、
周りの人たちは口々に言う。
実際、通いやすい所に、手頃な値段でしっかりした物が食べられる店が増えた。
それは、ダイヤモンドのような、溢れるような輝きを持つのではなく、
どちらかといえば、セミプレシャスの宝石のように、
きらっと、カラフルな光を放っている。
ボッカ・ルーポのシェフは、和食で修行をした経験があるという風に聞いたのだけど、
なんというのかな、素材の扱いとか、そんなところにそれを感じたというか。
どこかに、身に付いた和食の仕事の一部が残っている匂いがする。
それは決して悪い意味でも何でもなくて、
その「仕事」を今の仕事に活かしている感じが私はするし、
それがこの人の個性にも繋がっていくのだろうなと思ったりする。
和の匂いがしても、ちゃんとイタリアン。中途半端なところは全くない。
これから追々、スタッフも増えたら、パスタもフレスカをやりたいと言うことだし、
お客さんが慣れてきたら、難しい料理も出したいという話だった。
もっともっと、メニューを見て、決められずに迷うような店になってくれたら、
それってすごく嬉しいことだなあと思う。
最近の住宅街に出来るこうした店の特徴として言えるのは、
一時期の「パッション系フレンチ」(と私たちは勝手に呼んでいるのだけど)の、
木下さんや坂本さんあたりが店を出した頃、
俺が喰わせたいのはこれなんだぞ、というメニューから伝わる主張の強さで言うと、
彼らほど主張が強くなく、ある意味奥ゆかしい。
まずはお客様に馴染んでもらってから、徐々にやりたいことを見せて巻き込んでいきたい、
そんな意図が、話をしていて伝わってくる感じがする。
どんどん巻き込んでいって欲しいし、自分も巻き込まれてみたい。
くるくると、フォークで絡め取られるスパゲティのように。
シェフ、絡め取られる日を楽しみにしてます。
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